人間失格

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『人間失格』(にんげんしっかく)は、小説家・太宰治による中編小説。『ヴィヨンの妻』『走れメロス』『斜陽』に並ぶ太宰の代表作の1つである。

1948年(昭和23年)3月より書き始め、5月12日に脱稿した。太宰は、その1か月後の6月13日に山崎富栄とともに玉川上水で入水自殺した。

同年、雑誌『展望』6月号から8月号まで3回にわたって掲載された本作品は、著者死亡の翌月の7月25日、筑摩書房より短編「グッド・バイ」と併せて刊行された。定価は130円。

他人の前では面白おかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出すことのできない男の人生(幼少期から青年期まで)をその男の視点で描く。この主人公の名前は、太宰の初期の小説『道化の華』に一度だけ登場している。

戦後の売り上げは新潮文庫版だけでも累計発行部数670万部を突破しており、夏目漱石の『こころ』と何十年にもわたり累計部数を争っている。

あらすじ

作中で大庭葉蔵の手記とされるのは「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」であり、最初の「はしがき」と最後の「あとがき」は、「私」の体験談とされている。当初、「第一の手記」の原稿では主人公の一人称は「私」であったが、途中で書き直され「自分」となり、結果的に手記全体にわたりその一人称が使われた。 はしがき 「 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。 」

この書き出しから始まる文章は、幼年時代・学生時代・奇怪な写真の"三葉"の写真を見比べている。その様子が第三者の視点で書かれている。 第一の手記 「 恥の多い生涯を送って来ました。 」

この書き出しから始まる。「自分」は人とはまったく違う感覚を持っており、それに対して混乱し発狂しそうになる。それゆえにまともに人と会話が出来ない「自分」は、人間に対する最後の求愛として道化を演じる。だが、その言い争いも自己弁解もできない「自分」の本性は、女中や下男に犯されるという大人たちの残酷な犯罪を語らず、力なく笑っている人間であった。結果的に「自分」は欺きあいながら、「清く明るく朗らかに」あるいは生きうる自信を持つ人間たちに対する難解さの果てに誰にも訴えない孤独を選んでいた。 第二の手記

中学校時代、「自分」は道化という自らの技術が見抜かれそうになり、恐怖する。その後、旧制高等学校において人間への恐怖を紛らわすために、悪友・堀木により紹介された酒と煙草と淫売婦と左翼思想とに浸った。これらはすべて、「自分」にとって醜悪に見える人間の営みから、ひとときの解放をもたらすものだった。

しかし、急激に環境が変わることにつれてさまざまなしがらみから逃れがたくなり、結果として人妻との暖かな一夜ののちに、彼女と心中未遂事件を起こす。しかし、「自分」一人が生き残り、自殺幇助罪に問われる。結局、起訴猶予となり父親と取引のある男を引受人として釈放されるが、混乱した精神状態は続く。 第三の手記

一、罪に問われたことをきっかけとして高等学校を放校になり、一時引受人の男の家に逗留することになるが、男に将来どうするのかと詰め寄られて「自分」は家出をする。それをきっかけに子持ちの女性や、バーのマダムらとの破壊的な女性関係にはまりこむことになり、「自分」はさらに深い絶望の淵に立つことになる。しかし堀木とのやり取りを経て「世間とは個人ではないか」という思想めいたものを持つと、世の中に関する用心が和らぎ、漫画家となりルバイヤートの詩句を挿入するようになる。しかし、酒を止めよという一人の無垢な女性と知り合い、結婚し一時の幸福を得る「自分」であった。

二、だが、罪の対義語について堀木と対話するなかで、フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』が頭をよぎった直後、彼女は出入りの商人に犯される。「怒りでも無く、嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、物凄く、それも墓地の幽霊などに対する恐怖でもなく、神社の杉木立で白衣の御神体に逢った時に感ずるかも知れないような、古代の荒々しい恐怖感」と表現される凄惨な恐怖に襲われ、あまりの絶望に、アルコール飲料を浴びるように呑むようになり、ついにある晩、たまたま見つけた彼女が密かに用意していた睡眠薬を用いて、発作的にふたたび自殺未遂を起こす。

なんとか助かったものの、その後は体が衰弱してさらに酒を呑むようになり、東京で大雪の降った晩ついに喀血する。薬屋で処方されたモルヒネの注射液を使うと急激に調子が回復したため、それに味を占めて幾度となく使うようになり、ついにモルヒネ中毒にかかる。モルヒネ欲しさのあまり、何度も薬屋からツケ払いで薬を買ううちにのっぴきならない額となり、ついに薬屋の奥さんと関係を結ぶに至る。その自分の罪の重さに耐えきれなくなり、「自分」は実家に状況を説明して金の無心の手紙を送る。

やがて、家族の連絡を受けたらしい引受人の男と堀木がやってきて、病院に行こうと言われる。行き先はサナトリウムだと思っていたら、脳病院へ入院させられる。そして、「断じて自分は狂ってなどいなかった」と主張しつつも、他者より狂人としてのレッテルを貼られたことを自覚し、「自分」はもはや人間を失格したのだ、と確信するに至る。

映画[編集]

2010年 「人間失格」 主演 生田斗真


2019年 「人間失格 太宰治と3人の女たち」 主演 小栗旬